「ケアマネとして転職するなら、求人票だけではなく、その事業所がある地域についても調べた方がいい。」
こう言われても、いまひとつピンとこない人もいるかもしれません。
給与、年間休日、賞与、福利厚生。
どれも間違いなく重視すべき内容です。
しかし、ケアマネジャーとして働くのであれば同じくらい確認しておきたいことがあります。
その地域には、どのような高齢者が暮らしているのか。
なかでも、今回取り上げたいのが「経済状況」です。
結論から言えば、経済的に余裕のない高齢者が多い地域では、ケアマネジメントの難易度は一段上がります。
ただ先に断っておきますが、筆者は「貧困層はケアマネにとって都合が悪い」という主張したいわけではありません。
経験の少ないケアマネが苦戦しやすいという話をしていきます。
お金=選択肢
介護に使えるお金が限られていれば、当然ながら選べるサービスや支援方法も限られます。
必要だと思うサービスがあっても、費用を理由に提案できない。あるいは提案しても、利用者が選択できない。
生活保護の需給ができないギリギリのラインの貧困層の利用者では、これがザラにあります。
ただ貧困だけであれば、支援はまだ難しくはありません。
「貧困×α(×β)」といった複数の要因の組み合わせで支援の難易度はグッと上がります。
・貧困×家族全員何らかの特性持ち
・貧困×認知症×KPが遠方
・貧困×カスタマーハラスメント傾向
・貧困×元反社会的組織在籍
それこそ上記のような場合にはベテランケアマネでも支援が行き詰まるケースがあります。そして49人の利用者のうち1人、2人がこういった貧困×αのようなケースであることは特段珍しいことではありません。
なぜ貧困が根っこにあると難しいのか。
それは、他の問題を解決するために使えるカードまで減ってしまうからです。
例えば、家族による支援が期待できない。
それなら外部のサービスを増やせばいい。
しかし、お金がない。
認知症によって一人での外出が難しくなった。
それなら移動支援やタクシーなどを使えないか。
しかし、お金がない。
在宅生活そのものが難しくなってきた。
それなら住まいを変えることも検討したい。
しかし、入居できる施設は費用によって大きく限定される。
特養の申し込みができる要介護度でもない。
課題に対する解決策を思いついても、経済的な理由でそのカードを次々と封じられていく。
これが、経済的な制約を抱えたケースの難しさです。
支援をしていると、「もう少し介護や生活に使えるお金があれば……」と思う場面は実際にあります。
しかし、無いものは無い。
ケアマネは、その条件を変えることができない以上、限られた選択肢の中で別の方法を探さなければなりません。
行政の制度は使えないか。
地域の社会資源はないか。
どのサービスを削るか。
家族や関係機関と役割を分担できないか。
これまでの経験からいくつもの選択肢を思い浮かべ、その中から今より少しでも生活を良くできる方法を探していく。
ある程度場数を踏んだケアマネであれば、こうした引き出しを持っています。
しかし、未経験ケアマネにはまだその引き出しがありません。
お金という選択肢が使えない。さらに、経験から生まれる選択肢もまだ持っていない。
だからこそ、「貧困×α」のケースは未経験ケアマネにとって非常に高い壁になります。
難しいケースを一つ担当しただけで、膨大な時間と精神力を使うこともあります。
ましてや、十分なフォローを受けられない事業所で、こうしたケースをいきなり複数抱えることになればどうでしょうか。
経験を積んで引き出しを増やすより先に、仕事そのものに潰されてしまう可能性があります。
だから私は、未経験からケアマネとして働くのであれば、求人票だけでなく、その事業所が担当する地域にどのような高齢者が多いのかまで調べておいた方がいいと考えています。
支援が難しいケースを複数担当する可能性の高い地域に、むざむざ未経験の状態で突っ込んでいかなくてもいい。
そういったケースを多く捌くのは経験値を積んだケアマネに任せておいて、あなたはまずケアマネとしての実力を高めることを優先すべきです。
貧困層が多い地域の見つけ方
ここまで、貧困層が多い地域でのケアマネ業務は、経験の浅いケアマネにとって難易度が高くなりやすいことをお伝えしてきました。
しかし、実際に貧困層が多い地域がどこなのか分からなければ、避けようにも避けられません。
地域の経済状況を調べる方法の一つに、生活保護の統計データを確認する方法があります。
都道府県などが公表している統計資料を利用すれば、市町村ごとの生活保護受給世帯数や保護率などを確認できる場合があります。
ただし、こうしたデータは市町村単位で集計されていることが多く、同じ市内でも、どの地域に低所得世帯が多いのかまでは把握しにくいという問題があります。
そこで、私がおすすめするのが、公営団地がどこにあるのかを調べる方法です。
なぜ公営団地に注目するのか?
公営団地に注目する理由は、公営住宅という制度そのものが、低所得世帯の居住を想定して設けられているからです。
公営住宅法に基づく公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して、低廉な家賃で住宅を提供することを目的としています。
入居には所得要件が設けられており、一般的な民間賃貸住宅とは入居対象が異なります。また、生活保護を受給している世帯も入居対象となり得ます。
さらに、公営住宅には高齢者世帯、高齢者独居世帯、身寄りのない高齢者など、住宅の確保に配慮が必要な世帯が優先的に入居できる仕組みを設けている自治体もあります。
つまり、公営住宅は制度上、低所得世帯が集まりやすい性質を持っているのです。
団地の高齢化も関係している
もう一つ注目したいのが、公営団地の高齢化です。
高度経済成長期などに建設された団地の中には、入居者が長年住み続けたことで、高齢化が進んでいるところがあります。
入居当初は生活保護を受給していなかったとしても、加齢に伴う収入の減少や配偶者との死別、年金や貯蓄の不足などによって、後から生活保護の受給に至るケースも考えられます。
そのため、築年数が古く、高齢化が進んでいる公営団地については、特に注目する価値があるでしょう。
公営団地の場所を調べるだけでも地域の傾向が見えてくる
公営団地の所在地は、自治体や都道府県のホームページなどから確認できます。
生活保護の統計データだけでは把握しにくい、市町村内の地域ごとの特徴を知るための手掛かりになります。
例えば、同じ市内であっても、公営団地が複数集まっている地域と、戸建て住宅が中心の地域とでは、住民の所得構成や世帯構成が異なる可能性があります。
もちろん、公営団地が多いからといって、その地域全体に貧困層が多いと断定できるわけではありません。
それでも、地域の特徴を事前に調べるうえでは、比較的簡単に確認できる有用な情報の一つです。
公営団地の住民=貧困層ではない
最後に、一つ注意していただきたいことがあります。
ここまで公営団地と貧困層の関係について説明してきましたが、公営団地に住んでいる人がすべて貧困状態にあるという意味ではありません。
また、低所得であることと、生活保護を受給していることも同義ではありません。
筆者がお伝えしたいのは、公営住宅の制度上の性質から、一般的な住宅地に比べて低所得世帯が集まりやすい傾向があるということです。
公営団地の所在地だけで地域の経済状況を判断するのではなく、生活保護の統計データや地域の高齢化率なども併せて確認すると、より実態に近い地域分析ができるでしょう。
これから居宅介護支援事業所への就職や転職を考えている方は、事業所の所在地だけでなく、実際に担当する可能性がある地域についても、事前に調べてみることをおすすめします。

