認知症基本法とは、2023年6月に成立した法律で、正式名称「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」といいます。
認知症の人が尊厳を持って、希望を抱き生活できる社会を目指すために作られた法律です。
この記事では認知症基本法の概要、目的や理念、その施策について、原文をかみ砕き分かりやく解説していきます。
\ こちらの記事のチェックもおすすめ /
認知症基本法の目的
この法律は、認知症の人も含めたすべての国民が共に支え合いながら暮らす「共生社会」を実現するために制定されました。
認知症の人が増えている現状を踏まえ、認知症に対する正しい理解と支援を社会全体で進めていくことが求められています。
この法律の成立背景には、高齢者の増加とともに認知症患者が増えることが予測されるため、早急な対策が必要とされたことがあります。
認知症基本法の基本理念
認知症基本法では、以下の7つの基本理念が定められています。原文ではこのように記載されています。
一 全ての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること。
二 国民が、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることができるようにすること。
三 認知症の人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、全ての認知症の人が、社会の対等な構成員として、地域において安全にかつ安心して自立した日常生活を営むことができるようにするとともに、自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができるようにすること。
四 認知症の人の意向を十分に尊重しつつ、良質かつ適切な保健医療サービス及び福祉サービスが切れ目なく提供されること。
五 認知症の人に対する支援のみならず、その家族その他認知症の人と日常生活において密接な関係を有する者(以下「家族等」という。)に対する支援が適切に行われることにより、認知症の人及び家族等が地域において安心して日常生活を営むことができるようにすること。
六 認知症に関する専門的、学際的又は総合的な研究その他の共生社会の実現に資する研究等を推進するとともに、認知症及び軽度の認知機能の障害に係る予防、診断及び治療並びにリハビリテーション及び介護方法、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすための社会参加の在り方及び認知症の人が他の人々と支え合いながら共生することができる社会環境の整備その他の事項に関する科学的知見に基づく研究等の成果を広く国民が享受できる環境を整備すること。
七 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉その他の各関連分野における総合的な取組として行われること。
共生社会の実現を推進するための認知症基本法
これを分かりやすく要約すると、以下のようになります。
- 認知症の人が基本的人権を持ち、自分の意思で生活できる社会の実現。
- 国民全体が認知症について正しい知識を持ち、認知症の人への理解を深める。
- 認知症の人が生活する上での障壁を取り除き、社会参加の機会を確保する。
- 認知症の人が良質な医療・福祉サービスを受けられるようにする。
- 認知症の人とその家族が安心して生活できるよう支援体制を整える。
- 認知症に関する研究を推進し、その成果を国民に広める。
- 各分野で総合的な取り組みを行う。
これらの理念は、認知症の人が尊厳を持って生活できるようにするために必要な考え方を示しています。
認知症月間および認知症の日
認知症の日は9月21日に設定されています。
また、9月を認知症月間としています。
認知症の日や認知症月間では、国や地方公共団体は、認知症に関連する行事や事業を実施するよう努めるものと定められました。
国・地方公共団体等の責務等
認知症基本法では、国や地方公共団体に対して具体的な責務が定められています。
これには、認知症に関する施策を計画し実行することや、認知症の人が安心して暮らせる環境を整えるための法整備や財政支援が含まれます。
また、国民全体には、認知症に対する正しい知識を持ち、認知症の人に対して適切な理解と配慮を行うことが求められています。
これは、認知症が社会全体の問題であり、共生社会を実現するためには一人ひとりの協力が必要であることを示しています。
認知症基本法の基本施策
認知症基本法には、以下の8つの基本施策が盛り込まれています。
- 認知症の人に対する国民の理解の増進
- 認知症の人の生活におけるバリアフリー化の推進
- 認知症の人が社会参加する機会の確保
- 認知症の人の意思決定支援と権利利益の保護
- 保健医療サービス及び福祉サービスの提供体制の整備
- 認知症の人及びその家族に対する相談体制の整備
- 認知症に関する専門的、学際的又は総合的な研究の推進
- 認知症の発症を予防するための取組の推進
※その他、認知症施策に対する国際協力や調査などがあります。
これらの施策を、それぞれわかりやすく解説したのが以下のものとなります。
認知症の人に対する国民の理解の増進
国および地方公共団体は、認知症に関する正しい知識を広めるため、学校や地域での教育を推進します。
また、認知症の人々への理解を深めるための活動を実施し、認知症の人々が安心して暮らせる共生社会の実現を目指します。
認知症の人の生活におけるバリアフリー化の推進
国および地方公共団体は、認知症の人々が自立して安全に生活できる地域づくりを進めます。
これには、交通手段の確保や安全対策、地域での見守り体制の整備が含まれます。
また、認知症の人々が利用しやすい製品やサービスの開発・普及を促進し、事業者が適切に対応できるようガイドラインを作成します。
認知症の人が社会参加する機会の確保
国および地方公共団体は、認知症の人々が生きがいを持ち、希望を持って生活できるよう支援します。
認知症の経験を共有する場や、社会参加の機会を増やします。また、若年性認知症の人々が仕事を続けられるよう、就職支援や事業主への啓発活動を行います。
認知症の人の意思決定支援と権利利益の保護
国および地方公共団体は、認知症の人々が自分で意思決定できるよう支援し、その権利を守ります。これには、分かりやすい情報提供や消費者被害防止のための啓発活動などがあります。
保健医療サービス及び福祉サービスの提供体制の整備等
国および地方公共団体は、認知症の人々がどこに住んでいても適切な医療を受けられるよう、医療機関の整備を進めます。
また、地域包括ケアシステムを通じて、医療と福祉の連携を強化し、切れ目のないサービス提供を目指します。専門知識を持つ人材の育成や質の向上も行います。
認知症の人及びその家族に対する相談体制の整備
国および地方公共団体は、認知症の人々やその家族が気軽に相談できる体制を整えます。
また、地域の関係機関や民間団体との連携を強化し、孤立しないよう支援します。これには認知症カフェなどの交流活動を支援し、互いに助け合う環境を作ることが含まれます。
認知症に関する専門的、学際的又は総合的な研究の推進
国および地方公共団体は、認知症に関する研究を推進し、その成果を広めます。基礎研究から臨床研究まで幅広く行い、認知症の予防や治療法の開発を目指します。
また、認知症の人々が希望を持って暮らせる社会づくりについても研究します。
認知症の発症を予防するための取組の推進
国および地方公共団体は、認知症の予防に関する知識を広め、予防活動を推進します。地域での健康チェックや生活習慣の改善を通じて、認知症の早期発見・早期対応を目指します。
認知症施策推進基本計画等
認知症基本法に基づき、政府は認知症施策推進基本計画が策定されます。この計画は、認知症の予防から治療、介護、生活支援に至るまで、包括的な施策を定めています。
例えば、認知症の早期発見・早期治療の推進、認知症の人が住みやすい環境整備、認知症に関する研究の促進などが計画に含まれています。これにより、認知症に対する総合的な支援体制が整えられます。
都道府県および市町村は、認知症の人及び家族等の意見を聴いてそれぞれ都道府県計画・市町村計画を策定します。ただしこれは努力義務であるため必須ではありません。
認知症施策推進本部
認知症基本法に基づき、内閣に認知症施策推進本部が設置されます。この本部は、国の認知症対策の中心的な役割を担い、各施策の推進や関係機関との連携を図ります。
また、認知症施策推進基本計画等は認知症施策推進本部で作成されます。
本部の活動には、認知症に関するデータの収集・分析、施策の効果の評価、新たな施策の提案などが含まれます。これにより、認知症に対する取り組みが一層強化されます。
認知症基本法の影響と期待される変化
認知症基本法の施行によって、私たちにどんな影響が一体あるのでしょうか。
日本社会にはいくつかの重要な変化が期待されています。
具体的には次のような変化があると、筆者は考えています。
認知症への理解の深化
まず、認知症に対する理解が深まることが大きな影響の一つです。
この法律は、学校や地域での教育を通じて、認知症についての正しい知識を広めることを目的としています。これにより、認知症の人たちに対する偏見や誤解が減り、社会全体で支え合う意識が高まります。
例えば、認知症に関する講演会やワークショップの開催、学校の授業での認知症教育などが行われます。
これにより、若い人からお年寄りまで、幅広い世代が認知症についての理解を深め、認知症の人たちを支える力になります。
認知症の人たちの生活環境の改善
次に、認知症の人たちの生活環境が改善されることが期待されます。バリアフリー化の推進により、認知症の人たちが安全に自立して生活できる環境が整備されます。
例えば、公共施設や交通機関のバリアフリー化が進むことで、認知症の人たちが外出しやすくなり、社会参加の機会が増えます。
また、認知症の人たちが利用しやすい製品やサービスの開発・普及も進められます。これにより、日常生活での困難が軽減され、認知症の人たちが自立した生活を送りやすくなります。
認知症の人たちの社会参加の機会の増加
さらに、認知症の人たちの社会参加の機会が増えることも期待されます。
認知症基本法は、認知症の人たちが社会に参加できるような仕組みを整えることを目指しています。
地域イベントやクラブ活動への参加を促進したり、若年性認知症の人たちの就労支援を行ったりします。これにより、認知症の人たちが孤立せず、地域社会の一員として活躍する機会が増えます。
社会参加の機会が増えることで、認知症の進行を遅らせる効果も期待されます。
認知症に関する研究の進展
また、認知症に関する研究が進展することで、新しい治療法や予防策が見つかる可能性も高まります。
認知症基本法は、認知症の原因解明や治療法の研究を推進し、その成果を社会に広めることを目指しています。国や地方公共団体が研究機関を支援し、認知症に関する基礎研究や臨床研究が進められます。
これにより、認知症の予防や治療に関する新しい知見が得られ、将来的には認知症の発症を減少させることができるかもしれません。
認知症の人とその家族の支援体制の強化
最後に、認知症の人たちやその家族の支援体制が強化されることも重要な変化の一つです。
認知症基本法は、認知症の人たちやその家族が気軽に相談できる体制を整えることを目指しています。地域包括ケアシステムの強化や、認知症カフェなどの相談・交流の場の設置が進められます。
これにより、認知症の人たちやその家族が孤立することなく、安心して生活できる環境が整備されます。
まとめると、認知症基本法の施行により、日本社会は認知症の人たちが安心して暮らせる共生社会へと一歩近づくことが期待されます。
認知症に対する理解が深まり、生活環境が改善され、社会参加の機会が増え、研究が進展し、支援体制が強化されることで、認知症の人たちが尊厳を持って生活できる社会が実現するでしょう。
おわりに
ここまで認知症基本法について、出来るだけわかりやすく解説してみました。
認知症基本法は、認知症の人が希望を持って生活できる社会を目指すための法律です。
国や地方公共団体、国民全体が協力して、認知症に対する正しい理解と支援を進めていくことが求められます。
認知症基本法の基本理念や施策を理解し、一人ひとりが共生社会の実現に向けて行動することが重要です。
これからの日本社会において、認知症の人が安心して暮らせる環境を作るために、福祉に従事する人や国民一人一人が積極的にかかわっていくことが期待されます。